
運動器疾患(外傷、変形性関節症など)は小児から高齢者まで幅広く罹患し、中でも膝関節疾患は日常生活に影響を及ぼし加齢とともに下肢機能の低下につながりやすいとされています。さらに社会の高齢化の影響を受けて膝・股関節の人工関節は年々増加の一途です。
また若年から青壮年における靭帯損傷、半月損傷は変形の予防やスポーツ活動への復帰のため手術することが多く、中高年者の半月損傷についても鏡視下手術が必要になります。近年、内側半月後根断裂については放置すれば高確率で骨壊死、関節症へ進行することがわかり鏡視下手術の適応となっています。変形が進み保存療法が効果なければ人工関節置換術が必要となります。
このように膝疾患の年齢が幅広く外傷から変性疾患まで扱うため専門医の治療が必要と考えています。
当センターでは膝関節を専門にするドクターが多く在籍し、膝関節手術を多く行っています。また人工関節センターでもあり股関節の人工関節手術も行っています。
膝の関節鏡の歴史は古く、1922年高木憲次が世界初の関節鏡(径7.3mm) を用いた膝関節の観察をし、1962年渡辺正毅が世界初の鏡視下半月板切除術を行っています。
膝から始まった鏡視下手術は色々な外傷・疾患に応用され多岐に渡ります。
鏡視下手術の代表例を示します。
日本人に多い病気で約40人に1人の割合と言われています。症状がなければ手術はしませんが、活動性が活発になる中学前後に多く発症し、膝が伸ばせなくなったり痛みが出ます。
症状があれば手術が必要となり、鏡視下形成的切除・縫合術を行います(図1)。
(図1)円板状半月の治療
膝スポーツ外傷の中で代表的なケガで、受傷時は関節に血がたまり痛みが生じますがそのうちに膝が抜けるように不安定性が出現します。放置すればスポーツ活動に支障が生じ、時間が経つと半月、軟骨が傷み関節症となります。
このため鏡視下再建術を施行して膝関節の安定性を得ることが必要となります。当科ではハムストリング(膝屈筋腱)を用いた鏡視下再建術を行っています(図2)。
(図2)前十字靭帯断裂の治療
半月は膝関節ではクッションの役割をする重要な組織です。前十字靭帯断裂とも合併しよく見られる外傷です。中年以降には加齢変化で変性し容易に断裂することがあります。
痛みが生じたり、膝が伸ばせなくなったりします。
全て切除するとクッションがなくなり加齢変化が進行するため鏡視下切除・縫合術を行い温存を目指します(図3)。
(図3)半月板断裂の治療
関節面の軟骨下骨組織が線維性結合組織や線維軟骨により隔絶された状態でレントゲン上離断していても遊離体となっていないものや、脱落して遊離体を形成していくものがあります。
10才代から見られ早期に発見されれば関節鏡下に離断部にドリリングを行い癒合を目指します(図4)。
(図5)は術後経過のレントゲンですが、術後5週で変化が見られ、術後6ヶ月で完全に癒合していることが分かります。
(図4)離断性骨軟骨炎の治療
(図5)離断性骨軟骨炎の治療
最近注目されているのは内側半月後根断裂です(図6)。
50から60才代に多く、段差でつまずきそうになったなど軽微な外傷で発生し、歩行できなくなるほど激痛になります。診断は膝MRI検査で行います。
放置すれば高確率で骨壊死が発生し、加齢変化が進行し、診断後約30ヶ月で31%が、約60ヶ月で87%人工関節置換術などの手術が必要になるとも言われています。診断がつけば受傷3ヶ月以内に鏡視下内側半月板制動術を必要とします(図7)。
(図6)内側半月板後根断裂とは
(図7)鏡視下内側半月板制動術
スポーツや交通事故で脛骨を前内方に過度の回旋力が加わった時に発生します。
10才代前半の男児に多く発生し、以降の年齢では先の靭帯断裂となる場合が多いです。
関節鏡を用いて骨折部を整復し、針金を用いて骨片を牽引し固定します(図8)。
(図8)前十字靭帯剥離骨折
比較的高齢者に多く、脛骨前面を打撲したときに発生する。
手術方法は色々報告されているが、針金を用いて牽引し固定します(図9)。
(図9)後十字靭帯剥離骨折
プラトー(plateau)とは「高原」を意味し、すねの骨である脛骨の関節面を指します。骨折部のずれや陥没が大きければ手術をする必要があります。図10のように鏡視下に関節面を持ち上げ整えて固定します。外反力によるものが多いので外側半月板断裂などを合併することもあります(図10)。
(図10)脛骨プラトー骨折
1回の純外傷によるものや外傷後に膝外反大腿内旋の肢位で脱臼する、いわゆる反復性脱臼が多いです(図11)。
ある一定の角度で脱臼する習慣性脱臼や全可動域で脱臼している恒久性脱臼もあるが生まれつきに見られます。
習慣性・恒久性脱臼は下肢の変形につながるため手術になるが、反復性脱臼は不安感が強い場合に手術になります(図12)。
(図11)膝蓋骨脱臼
(図12)脛骨粗面前内方移動術
50~70才では変形が強くなければ高位脛骨骨切り術を推奨します(図13)。
(図13)高位脛骨骨切術
膝関節を温存するため可動域が良好でスポーツ活動も可能です。活動性の高い人にお勧めします。しかし人工関節置換術に比べ痛みが取れるまで時間がかかります。
70才以降で除痛を目的とする場合には人工関節置換術を行います。
術後リハビリテーションが早く、手術翌日には座位、起立が可能で2日目以降には歩行練習を開始し、約4週で階段練習が開始され自宅退院となります。
内側のみの病変であれば単顆型人工関節(図14)、内側以外も変性があれば全人工関節置換術(図15)を行います。
単顆型の方は侵襲が少ないですが適応の制限があります。
(図14)単顆人工関節置換術
(図15)膝人工関節置換術
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